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横浜地方裁判所 昭和36年(ワ)108号 判決 1965年10月25日

原告

野上正司

右訴訟代理人

畠山国重

右同

鍵尾丞治

被告

日本興国株式会社

右代表者

植木晴

右訴訟代理人

高林茂男

右同

井上綱雄

右同

山本金造

主文

原告の請求のうち、被告会社の昭和三五年二月一日の斎藤忠義を監査役に選任する旨および同年八月五日の植木ソメを取締役に選任する旨の右株主総会決議不存在確認請求につき訴を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

(一)  原告は被告会社の株式二〇〇株(一株の額面五〇〇円)の株主であることを確認する。

(二)  被告は原告に対し、被告会社の株式二〇〇株(一株の額面五〇〇円)の株券を発行して交付せよ。

(三)  被告は原告に対し、別紙帳簿目録記載の帳簿書類を閲覧および謄写させよ。

(四)  被告は原告に対し、昭和三六年二月一八日から原告に右帳簿書類を閣覧および謄写させるまで一日金二、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(五)  被告会社の昭和三五年二月一日の植木晴、植木寅吉および加賀恒夫を取締役に、斎藤忠義を監査役にそれぞれ選任する旨の株主総会決議は不存在であることを確認する。

(六)  被告会社の同年八月五日の植木ソメを取締役に選任する旨の株主総会決議は不存在であることを確認する。

(七)  被告は、被告会社の横浜地方法務局同年二月一日受付による植木晴および加賀恒夫の取締役、植木晴の代表取締役ならびに斎藤忠義の監査役各就任の登記の抹消申請手続をせよ。

(八)  被告は、被告会社の右法務局同年八月二六日受付による植木ソメの取締役就任登記の抹消申請手続をせよ。

(九)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および第四項につき仮執行の宣言を求める。

(被告)(本案前の申立)

一、原告の本訴第五、六項の請求につき訴を却下する。

(本案についての申立)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者双方の主張

(原告)(請求の原因)

一、被告会社は、競馬の振興発展、場外馬券発売所の経営およびこれに附帯する事業を行うことを目的として、昭和二七年二月一日設立された、発行済株式総数二、〇〇〇株(一株の額面五〇〇円)の会社である。

二、(一) 原告は、被告会社の設立に際し、発起人となり、株式二〇〇株を引受けて株主となつたものである。

(二) 原告が被告会社の株主であることは、(1)被告会社は、原告が昭和二六年一一月頃被告会社代表取締役植木晴の先代亡植木寅吉から、利益を折半するから場外馬券発売所の共同経営に参画して欲しい旨こん請を受けてこれを容れ、最初原告と寅吉との二人だけの組合形式で右発売所の運営を行う予定であつたところ、農林省の認可を受けるためには、会社組織でなければ不可とのことで、設立することとなつたこと、(2)原告は、昭和二六年一二月一〇日原告の妻野上君枝をして、同女所有の横浜市中区宮川町三丁目八五番の四宅地五三坪(当初同所八六番宅地三一坪二合五勺と表示を誤る)および同所八七番地九二坪五合九勺を右発売所経営事業のために提供させ(八七番は植木晴に、八五番の四は被告会社にそれぞれ売渡され、昭和二七年一月一五日および同年二月四日それぞれ所有権移転登記を経る)、現に右二筆の土地は被告会社の場外馬券発売所敷地として使用されていること、(3)その他、原告は被告会社の株式払込取扱銀行として原告の取引銀行であつた三和銀行桜木町支店を指定し、昭和二六年一二月頃同銀行係員に寅吉を紹介し、また右事業の発足に当り、同人と二人で、右発売所の近所の人達を戸別訪問して挨拶したことなど、原告は被告会社の設立に関して莫大な尽力をしていることからして明らかであり、単に寅吉に名義を貸したものでない。しかして、株式の払込は一括して寅吉がなしているので、原告と同人との間に株式二〇〇株の払込金一〇万円の貸借関係が残るわけであるが、原告の右貸借関係清算方の申出に対し、同人は右宅地売買に当つて長期月賦の便を得たからといつて、そのままになり、今日に至つている。

三、 仮りに、原告が株式引受人としての名義を寅吉の依頼により貸与したにすぎないものであるとしても、商法第二〇一条第二項により名義貸与者が株式引受人となるから、やはり原告が株主である。

四、 また、原告は被告会社設立当初の取締役であり、その任期(昭和二八年二月に招集されるべき定時株主総会の終了まで)満了後も商法第二五八条第一項により取締役の権利義務を有してきたが、昭和二八年一一月三〇日取締役に重任(同年一二月二一日その旨登記)された。そしてその任期は昭和三〇年二月に招集されるべき定時株主総会の終了までのところ、その株主総会は招集されなかつたから、原告は右商法の規定により、その後においても取締役の権利義務を有してきたものである。

五、 被告会社は、昭和三五年二月一日に植木晴、植木寅吉および加賀恒夫を取締役に、斎藤忠義を監査役にそれぞれ選任する旨の株主総会決議がなされたとして、横浜地方法務局同日受付による右各役員就任登記を了し、次いで同年五月八日寅吉が死亡したことにより、同年八月五日植木ソメを取締役に選任する旨の株主総会決議がなされたとして、同法務局同月二六日受付による右取締役就任登記を了している。

六、(一) しかしながら、右各総会決議は存在しないものである。

(二) 仮りに、昭和三五年二月一日に、いずれも被告会社の株主である植木晴(持株七〇〇株)、植木寅吉(持株二〇〇株)および植木ソメ(持株六〇株)が、同年八月五日晴およびソメがそれぞれ会合して取締役等を選任したとしても、それを目して株主総会が成立し、その決議があつたものということはできない。

(三) すなわち、株主に対する総会招集手続を欠いている。書面による招集通知はなく、口頭による招集通知があつたとしても、それは商法第二三二条に反し、全然通知がないのに等しい。かつ、招集通知もれが、右二月一日の会合にあつては全株主一二名中九名、発行済総株式二、〇〇〇株中一、〇四〇株に、八月五日の会合にあつては全株主一一名中九名、発行済総株式二、〇〇〇株中一、〇四〇株に及ぶのであるから、全株主に対し招集通知をしなかつたも同然であり、右各会合は晴の父である寅吉、母であるソメらの親子間の相談に過ぎない。

七、(一) また、被告会社は、昭和三五年二月一日に植木晴を代表取締役に選任する旨の取締役決議がされたとして、横浜地方法務局同日受付による右代表取締役就任登記を了している。

(二) しかし、右のように取締役選任の株主総会決議が不存在である以上、取締役会は成立し得ず、代表取締役選任決議が存在することはあり得ない。

八、(一) 被告会社は、原告が前述のとおり被告会社の株式二〇〇株(一株の額面五〇〇円)の株主であることを否定するので、原告はその旨の確認を求める。

(二) 被告会社はいまだ株券の発行をしていないので、原告は被告に対し、被告会社の株式二〇〇株(一株の額面五〇〇円)の株券を発行して交付することを求める。

(三) 被告会社の経理運営は杜撰を極め、利益配当もしないで今日に至つているものであるが、原告は被告会社の株主ないし少数株主または取締役の権利義務を有する者として、被告に対し、その経理の明瞭化を図り、併せて利益配当要求等をするため、設立以来の経営内容の報告を求めたが、これに応じないので、別紙帳簿目録記載の帳簿書類の閲覧および謄写をさせることを求める。

(四) 右のように、原告は被告会社に対し、右帳簿書類の閲覧謄写権を有するのであるが、被告会社から右帳簿書類の閲覧謄写を拒否されることにより、物質上および精神上一日につき金二、〇〇〇円相当の損害を蒙るので、被告に対し、本件訴状送達の翌日である昭和三六年二月一八日から原告に右帳簿書類の閲覧および謄写をさせるまで右割合による金員の支払を求める。

(五) 前述のとおり被告会社の昭和三五年二月一日および同年五月五日の株主総会決議はいずれも不存在であるから、原告は被告会社の株主または取締役の権利義務を有する者として右各決議不存在の確認を求める。

(六) そうして、前述のとおり原告の申立第七、八項掲記の各登記はいずれも事実に反するものであるから、原告は被告会社の株主または取締役の権利義務を有する者として、被告に対し、右各登記の抹消申請手続をすることを求める。

(会社代表者についての主張)

一、取締役と会社間の訴訟においては、商法第二六一条の二により取締役会等の定めた者が会社を代表するのであるが、取締役から会社に対し訴を提起する場合には事前に同条所定の会社を代表すべき者の選任を求める必要はなく、当該訴状は会社代表取締役に宛て送達されれば足り、会社においてその後代表する者を選任すべきである。

二、これを本件においてみるに、原告の取締役の権利義務を有する地位に基づいても本件株主総会決議不存在確認を求める旨の主張を記載した昭和三七年四月二五日付準備書面は、被告会社代表取締役より委任を受けた被告会社訴訟代理人に送達されているのであるから、これに対し被告会社において積極的な訴訟行為をするため、右商法所定の会社を代表すべき者を選任すべきものである。

(被告)〔本案前の申立の理由〕

株主総会の決議というのは事実そのものであり、このような事実の確認を求める訴は不当であるから、却下されるべきである。

(訴の変更についての異議)

原告は、当初原告の申立第三ないし八項の請求をしていたところ、その後第一、二項の請求を追加したが、右追加された各請求は従前の各請求といづれの間においてもその基礎を異にするものであるから、右訴の変更は許されない。

(会社代表者についての主張)

原告は、当初被告会社の株主たる地位に基づき本件株主総会決議不存在確認を求めていたところ、その後、その外被告会社の取締役の権利義務を有する地位に基づいても右不存在確認を求める旨の主張を附加したが、取締役が会社に対して訴を提起する場合はその訴訟については取締役会または株主総会の定める者をして会社を代表させなければならないのであり、右会社を代表する者が定められていない本件訴訟においては右附加的主張は許されない。

(請求の原因に対する答弁)

一、原告主張の請求原因第一項の事実は認める。

二、(一)同第二項(一)の事実は否認する。被告会社の発起人は植木晴および植木寅吉のみであり、発行済株式二、〇〇〇株は発起人として晴により八〇〇株、寅吉により六〇〇株、株式申込人として植木ソメにより六〇〇株が引受けられて払込まれ、晴ら三名において被告会社の株主となつたもので、被告会社の設立に当り定款上発起人の数を充たすため他の者の了解を得て名義の貸与を受けたが、原告もその一人で、寅吉が原告の承諾を得て仮装に定款に発起人として原告名義を記載し、二〇〇株につき原告名義の株式引受証を作成し、株金の払込をしたものである。

(二)同項(二)の事実中、野上君枝所有の八五番の四の宅地を被告会社が、八七番の宅地を植木晴が買受け、原告主張の日にそれぞれ所有権移転登記したこと(ただし、八五番の四に八六番の宅地と誤つて表示され、八六番につき所有権移転登記をしたが、昭和三一年五月二八日交換の形式で登記を是正した)および八五の四を場外馬券発売所の敷地として利用していることは認める、原告が寅吉を三和銀行桜木町係員に紹介したことは不知、その余は否認する。

被告会社代表者植木晴は昭和一三年一一月社団法人横浜競馬振興会の主任書記に就任したことを振出しに昭和二四年七月まで競馬の業務全般殊に勝馬投票(馬券)事務に、そうして同年八月以降は競輪業務の運営殊に車券業務に携わり、これらの業務に精通し、したがつて競馬業務に関する事項の主務官庁たる農林省の畜産局に多くの知人を有していたところから、昭和二六年一〇月場外馬券発売所の設置を企画し、右畜産局で設置指定を得る可能性を確めて、以来亡父植木寅吉をして右発売所の設置所を物色させて計画の実現に務め、その結果右土地を得て被告会社が設立され、場外馬券発売所を設置するに至つたものである。原告は右事業には実質上何等の関係も有しないものである。

三、同第三項は争う。商法第二〇一条第二項によつても、株式引受人は名義借用主である植木寅吉であり原告ではない。

四、同第四項の事実中、原告が被告会社の昭和三五年二月一日の株主総会において植木晴らが後任取締役に選任されて就任した以後取締役としての権利義務を有することは否認する。その余は認める。

五、同第五項の事実は認める。

六、(一)同六項(一)の事実は否認する。なお被告会社の名義借用株主は九名で、その株式は一、〇四〇株である。

(二) 被告会社の代表取締役の権利義務を有した植木晴は、昭和三五年二月一日開催の定時株主総会には株主植木晴、同植木寅吉および同植木ソノを、同年八月五日開催の株主総会には株主晴(寅吉が同年五月八日死亡したことにより、その持株六〇〇株を相続した)および同ソメを、すなわちいずれも株主全員を招集し、請求原因第五項のとおり、取締役および監査役または取締役の選任をしたものである。なお、晴は寅吉の子、ソメは寅吉の妻であつて同一家庭内に居住しているので、右各総会の招集は書面によらず口頭によつた瑕疵はあつたが、いずれも総会終結後取消の訴を提起する者なく三ケ月の経過によりその瑕疵は治ゆされた。

七、(一) 同第七項(一)の事実は認める。

(二) 同項(二)の事実は否認する。被告会社の昭和三五年二月一日の株主総会の中途において新任取締役会を開き植木晴を代表取締役に選任したものである。

八、(一) 同八項(四)の事実は否認する。

(二)同項(六)の請求はそれ自体失当である。すなわち、商業登記においては登記義務者は国に対し登記義務を負うものであつて国以外の私人に対してこれを負うものではない。

第三当事者双方の証拠の提出および認否(略)

理由

一、被告会社の代表者について

本訴請求中、被告会社の株主たる地位の確認および株券の発行交付請求以外につき、原告は被告会社の株主たる地位に基づく外、取締役の権利義務を有する地位に基づくものである旨主張し、原、被告とも右取締役の権利義務を有する地位に基づく主張ないし請求、しかも株主総会決議不存在確認請求においてのみ、商法第二六一条の二が適用されるものとして論議している。しかし、右規定にいう、取締役が会社に対し訴を提起する場合とは、取締役たる者が取締役の資格において訴を提起する場合であると、個人としてあるいはその他の資格において提起する場合であるとを問わない趣旨である。右規定は取締役間の個人的関係によつて会社の利益が害されることをおそれたための規定であり、そのおそれは訴訟当事者となるべき者が取締役の地位にあることに由来するものであり、取締役としての資格においてその権能が行使されることから生ずるものでないからである。右適用の有無は本訴全体につき問題とされるべきものといわなければならない。そうして、右問題を考える場合、取締役であるか否かということは、実体関係に立入つて判断した結果により遡つて決定されるべきではなく原告の主張するところによつて決定すべき形式的問題であることはいうまでもない。

ところで取締役が会社に対し提起する訴において、当該取締役の地位あるいは相手となる会社の代表取締役の地位自体が争いの対象となつている場合にあつては、取締役間の個人的関係により、なれ合うというおそれがないばかりか、右争いが解決されなければ商法第二六一条の二の規定による会社代表者を選任すべき取締役会の構成も定まらず、本案の解決を手続事項決定の前提として要求することとなる不合理を生ずるから、右規定の適用はなく、会社代表取締役として登記されている者が右訴につき会社を代表するというべきである。

従つて、本訴につき右規定により被告会社を代表する者を定める必要はない。

二、本件株主総会決議不存在確認の訴の適否について

被告は、本件株主総会決議不存在確認の訴は、事実関係の確定を目的とするものであるから、不適法であると主張するが、本件株主総会決議不存在確認の訴は当該決議の存否自体の確定を求めるものとは解されず、右本訴は本件株主総会決議がその効力を有しないことの確定を目的とするものであり、その理由として株主総会決議の不存在が主張されているものというべきである。かかる訴も株主総会決議無効確認の訴の一種として適法なことは商法第二五二条にも照らして明らかである。

被告の右主張は採用できない。

三、訴変更の適否について

原告が、当初の原告申立らん第三ないし八項掲記の請求に、同第一、二項掲記の請求を追加したのに対し、被告は従前の請求と右追加請求との間にはいずれも請求の基礎を異にするから、原告の右訴の変更は許されない旨主張するので判断する。

取りあえず、右第三項の帳簿書類の閲覧請求との関係で追加請求との請求の基礎の異同を考えても、株主の会社に対する帳簿書類の閲覧請求権にとつて株主たる地位はそれを包含した権利義務の総体ともそれらを発生させる統一的基礎ともいえるものであり、訴の追加的変更の特殊な場合としての中間確認の訴における先決性を具有するものであつて、もとより請求の基礎を異にするものではない。そうして、株主の株券発行交付請求権もまた株主権の一つであり、右帳簿書類閲覧権と同じく株主たる地位から発生するものであり、右従前の請求と追加請求との基礎は同一というべきである。そうすると、さらに検討するまでもなく、被告の右主張は理由がないこと明らかであり、かつ右請求の追加により著しく訴訟手続を遅滞させるおそれは存在しないから本件訴の変更は適法である。

四、原告が被告会社の株主であるか否かについて

(一)  被告会社は昭和三七年二月一日原告主張の目的で、株式二、〇〇〇株(一株の額面五〇〇円)を発行して設立されたことおよび被告会社の定款に発起人として原告の名が記載され、株式二〇〇株につきその名義で引受がなされていることは当事者間に争いがないが、被告は右は植木寅吉が原告の承諾を得ていずれもその名義のみを借用したものである旨主張し、原告が被告会社の株主であることを争うので、この点につき検討する。

<証拠>を併せ考えれば、被告会社代表者、植木晴は、昭和一三年横浜競馬振興会に主任書記として、就任したのを振出しに昭和二四年までの競馬の馬券業務に従事し、その後は同種の仕事である競輪の車券業務に従事して来たものであるが、昭和二六年一〇月頃横浜市内に場外馬券発売所を設置することを企画し、当該事項の主務官庁であつた農林省畜産局競馬部の、知り合でもある職員小田信勝らと相談した結果、右発売所開設について必要な指定を受けるには会社組織にした方が都合がよいということで、被告会社を設立することとなつたことが、また<証拠>を併せ考えれば、被告会社の発起人として記名押印した八名および株式申込人としてその名義で株式払込領収証の作成されている四名合計一二名中、植木晴、同人の父母であること当事者間に争いのない植木寅吉、植木ソメおよび原告を除くその余の者はいずれも名義のみを貸与したに止まり、発起人あるいは株主となる意思を有していなかつたこと、右名義貸与者は晴あるいは寅吉の知人親類縁者であること、発起人代表であつた晴との間において原告を共同事業者とする話がなされたことがなかつたこと、定款の作成、株式および役員の割り振り、株式引受書の作成、株金の払込等被告会社の設立事務は晴において遂行し、株式払込金一〇〇万円は晴が四〇万円、寅吉およびソメが各三〇万円を分担して支出したものであること、設立後馬券発売所の開設、運営等も晴および寅吉が行つて来たこと、晴および寅吉において原告との仲がこじれる前にあつても原告を被告会社の株主あるいは取締役として待遇ないし取扱をしたことなく、設立後一年程として同人らが右名義貸与者等を箱根へ招待した際も原告は被招待者の一員として取扱われていること、他方原告がその権利を主張する株式二〇〇株の株金についても払込をしていないことは当事者間に争いないところであるが、原告が共同事業参加者とすればなされなければならない出資ないし出捐が何一つなされていないこと、寅吉は原告の株式払込金の支払方法申入れに対し理由とならない理由をつけてこれに応じようとしなかつたこと、結局、晴において原告を本件場外馬券発売所設置事業に参加させる意思を有したことなく、また、寅吉は原告に対し右事業を共同で行おうと話をしているが、それは寅吉の真意ではないことが認められる。右認定に反する<証拠>は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実からすれば、原告による被告会社の株式引受行為があつたといいえず、せいぜい瑕疵の有無は別として、原告の承諾のもとに原告名義が借用されたに止まると認めざるをえない。

<証拠>によれば、原告と植木寅吉との場外馬券発売所を共同して経営する旨の話がなされて、原告が自己の取引銀行である三和銀行桜木町支店を被告会社の株式払込取扱銀行として利用するよう紹介し、また本件場外馬券発売所の近隣の人達に同発売所開設についての挨拶廻りをする等のことがあつたと認められるにしても、共同経営ということが前示のとおり寅吉の真意から出た話とは認められないのであるから、右銀行の紹介等の事実をもつては前示名義貸与の認定を覆えすことはできない。

そしてまた、原告は原告の妻野上君枝所有の横浜市中区宮川町三丁目八五番の四宅地五三坪(同所八六番宅地三一坪二合五勺と表示が誤られたことは当事者間に争いがない)および同所八七番宅地九二坪五合九勺の土地を、本件場外馬券発売所設置を共同事業として行うため、提供させた旨主張し、八五番の四が被告会社により右発売所敷地として利用されていることは当事者間に争いないところであるが、八五番の四が被告会社へ、八七番が植木晴へいずれも売買により所有権移転がなされていることも同じく当事者間に争いなく、<証拠>によれば、八五番の四の売買代金は金一一〇万円、八七番の右代金は金一〇〇万円であることが認められ、右代金額は鑑定嘱託および鑑定評価書に対する照会の各結果により認められる当時の時価と対比して八五番の四については廉価であり、八七番についてはやや上廻るが、<証拠>によれば八七番の地積は七一坪余に過ぎないものであり、それに<証拠>を総合すれば、八七番および隣接地につき、賃借権を有するとする田中源次より君枝に対し、昭和二七年一月二四日頃、仮処分がなされたので、訴訟対策上急いで売買契約を結び、代金を月賦とし、直ちに所有権移転登記を済せるという事情があつたことが認められるのであつて、右各土地の売買を共同事業に対する出資ないし出捐と目することはできない。

(二)  右のように原告は被告会社の株式引受につき名義貸与者に止まるところ、商法第二〇一条第二項の解釈としてあるいは株式引受が集団的行為であることから名義人が株式引受人であるとする考えがあるが、当裁判所はこれを採らない。株主をめぐる集団的法律関係は株主名簿により画一的団体的処理ができるのであつて、実際に行為をした者が行為者として権利者となり義務者となるという一般的原則を排して全面的に名義人に権利義務を帰属させなければならない合理性があるとは考えられず、右商法の規定は右原則を変更したものではなく、引受人たる外観を現出させた者にその責任を負わせたに過ぎないと解するのが相当である。

そうして、株主名簿の記載に権利創設的効力は認められないのであるから、その記載の有無に拘らず、適法に株式を取得していない無権利者の権利行使を、会社において拒絶できるのは当然である。

(三)  このようにして、さらに判断を進めるまでもなく、本訴請求のうち、原告が被告会社の株主であることの確認請求ならびにその他の地位から発生する権利としてのあるいは地位にあることに基づく、原告の申立らん第二、三、七、八項掲記の各請求および右権利の妨害を原因とする同第四項掲記の損害賠償請求はいずれも理由がないといわなければならない。

五、株主総会決議の成否について

(一)  原告主張のとおり被告会社の植木晴らの取締役就任登記がなされていることおよび原告が昭和二八年一一月三〇日取締役に選任(重任)され、その任期が昭和三〇年二月に招集されるべき定時株主総会の終了までのところ、その株主総会が招集されなかつたことにより、その後本件昭和三五年二月一日の株主総会における後任取締役選任によるその就任の時まで取締役の権利義務を有して来たことは当事者間に争いなく、原告が右地位を有することにより、その地位の存否がかかりかつ外見的存在を有する右後任取締役選任決議の不存在確認を求める利益は肯定されなければならない。

(二)  そこで被告会社の昭和三五年二月一日の株主総会の成立等につき検討するに、前示原告の株式引受の有無を判断するに際し認定したところからして、被告会社の株主は当時植木晴、植木寅吉および植木ソメの三名であり、<証拠>を併せ考えれば、被告会社の取締役兼代表取締役の権利義務を有していた晴から株主に対し、約一〇日前に口頭で招集通知がなされ、取締役たる権利義務を有していた加賀恒夫に対し、約一週間前に電話で通知がなされ、昭和三五年二月一日横浜市南区井土ケ谷下町二二番地被告会社事務所において、株主全員および加賀恒夫が出席して、異議なく取締役に晴、寅吉および加賀を選任する旨等の決議がなされ、右三名はその場で取締役就任を承諾したことが認められ、これに反する<証拠>は信用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右株主総会の招集手続につき瑕疵があることは明白であるが、その瑕疵は商法第二四七条以下の取消の訴の事由に該当するに止まるというべきであるから、右選任決議は有効に成立しているといわなければならない。

(三)  そうすれば、原告の右株主総会決議の不存在確認請求は、その理由がなく、同時に原告は右三名の取締役就任に伴い被告会社の取締役としての権利義務を有しなくなつたといわざるをえない。

六、結論

(一)  以上の説示よりすれば、原告の被告会社の昭和三五年二月一日の斎藤忠義を監査役に選任する旨および同年八月五日の植木ソメを取締役に選任する旨の各株主総会決議不存在確認を求める訴については確認の利益を認めることができないから、いずれもこれを不適法として却下する。

(二)  またその余の原告が被告会社の取締役の権利義務を有する地位にあることを理由とする原告の申立らん第三、四、七および八項掲記の請求はさらに判断を進めるまでもなくすべて理由がないといわなければならないから、結局、右(一)を除くその余の本訴請求は全部失当として棄却する。

(三)  訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用する。

よつて主文のとおり判決する。(豊島利夫)

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